このキョーダイ、じつはワケありでして。
けれど重い空気は私たちのものではなかった。
なぜか天瀬と邪魔先輩のあいだにある。
「空手部、かなり盛り上がってたって聞いて。俺も見に行けばよかったなー」
だって天瀬、言ってた。
誰かのことをこの世でいちばん嫌いだって。
そいつが保健室に入ってきたとき、殺気に似た視線で一瞬睨んでいたような気がする。
「慶音。家族だよ俺たちは」
全員がいなくなった保健室で、これが兄の第一声。
兄妹だよ、ではなく、家族だよ。
そこは兄妹だよって言って欲しかったな……兄ちゃん。
「部員たち、みんな慶ちゃんと天瀬くんの試合に釘付けだったよ」
「……うん」
「ふたりの動きをしっかり見習え!ってね、顧問の先生も言ってた」
「……うん」
「よーし今日は慶音も頑張ったからしゃぶしゃぶでもしようか」
「……たのしみ」
静かだね。
なんか、すっごく静か。
ねえ兄ちゃん。
こんなふうに頑張って会話を探すのって、お父さんとお母さんが居なくなったとき以来だよね。