やり手CEOはお堅い秘書を手放さない
昨日の彼がとった言動のおかげで、まったく眠ることができなかったのだ。
『心身ともに忙しくなる』
彼の言った新しい試みが昨夜のことならば、それは大成功している。しっかりと心が忙しくなったのだから。
改めて考えてみればひどい人だけど、好きだから憎むことなんてできない。
今は胸の中が騒がしいけれど、いつか平穏になるのだ。それまでは耐えるしかない。
タクシーに乗って酒井家に向かいながら、あふれ出るため息を何度も漏らした。
「はぁ……、ほんとになんて非情な人を好きになっちゃったのよ……」
バースデープレゼントは悩んだけれど時間がなかったから、結局百合の花をあしらったフラワーアレンジメントにしてしまった。
ベタだけど、好みに合わない品物よりは断然いい。
「お客さん、着きましたよ」
運転手に告げられて代金を支払い、車から降りた私は呆然として目の前にある建物を眺めた。
メモの住所を頼りに来たけれど、大きなお屋敷と言える和風邸宅を前にして、一気に眠気が覚めてしまった。
「待って。ほんとうに、ここなの……?」
高級旅館のような立派な和風の門には、たしかに【酒井】の表札がある。