干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「俊介……私はもう随分と、お前と距離が開いてしまった。お前は今、何を考えている?」

 そう躊躇(ためら)いがちに言った社長の顔は、まさに父親の顔つきだった。

 俊介は、久しぶりに見たその表情に驚きながら、ゆっくりと口を開く。


「僕はこのプロジェクトを任される前までは、会社が息苦しくてたまらなかったですよ。最初こそ意気込んで仕事に取り組みましたが、組織に入ってしまえば僕一人の力なんて、何の役にも立たなかった。未来の事なんて、考えもしなくなった……」

 俊介は顔を上げ、正面から社長の目を見据える。


「でも、そんな僕を変えてくれた人がいたんです。僕はこの会社をみんなを守りたい。そのためには、ここで退くわけにはいかないんです。社長、僕にプロジェクトを継続させてください。お願いします」

 深々と頭を下げる俊介の姿に、社長はひどく驚いた顔をしていた。


「わかった……。専務をここに呼べ」

 しばらくしてから社長は重い口を開くと、秘書に目配せをする。

 秘書は軽く頭を下げると、隣の部屋へと消えて行った。


「俊介。お前に新しい任務を与える」

「え?」

 俊介は下げた頭を上げると、戸惑った表情を見せながら部長と顔を見合わせた。
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