干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「伐採ならまだいいけど、根から抜くのは特に時間がかかるんだよ。いいよ。届けてあげる」

「そんな! ただでさえ無理を言ってるのに。そんな事できません」

「どうせあたしら年寄りは、暇してるんだから気にしなさんな。あんたの事は他人に思えなくてねぇ。なんたって、ここで死にかけたんだからね」

 福さんはあははと豪快に笑った。


「福さん……本当にありがとうございます!」

 美琴は勢いよく頭を下げる。

「さぁ、行った行った」

 福さんは美琴の肩を押して座席に座らせると、運転席のドアを勢いよく閉めた。


 美琴がエンジンをかけた時「あっ」と福さんが大きな口を開けるのが見えて、美琴は慌てて窓を下ろす。

「大事な事、忘れてた! あんたを助けた人の姿を見たってお客さんがいたんだよ」

「え?! 本当ですか?!」

「そうそう。雅也くん位の歳の人で、いい男だったって言ってたよ。良いもの着てたから、ありゃ都会のエリートだねって笑ってたさ。趣味で山歩きでもしてるんだろうね。またここらで見かけたら、今度はちゃんと名前聞いとくからね」

 美琴はSNSの人かも知れないその人の話が出て、急に心臓がドキリとする。


「ほらほら。行った行った」

 福さんに促され、美琴は動揺を隠せないままアクセルを踏み渓谷を後にした。
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