干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 美琴は車のエンジンを切ると、腕時計に目をやった。


 ――何とか午前中までに間に合った……。


 勢いよく座席から降りた瞬間、ぐらりと視界が揺れる。

 美琴は慌ててドアに手をつき、何とか態勢を落ち着かせた。

 寝ていない状況で長距離の往復をしたのだから、めまいがするのは当然だった。


 それでもみんなに状況を伝えるまではと、力を振り絞ってエレベーターに飛び乗る。

 美琴がフロアに駆け込むと、一番にそれを見つけた滝山が泣きそうな顔で走り寄って来た。

「友野さん!」

 普段は冷静な胡桃の叫ぶ声が聞こえる。

「副社長にすぐ電話!」

 部長が瑠偉に大声を出した。


 美琴はぼんやりする頭で、その様子を見つめながら小さく口を開く。

「駐車場に刈った草や枝の袋が入ってる。木は後からトラックで届けてくれるって……ここに確認してみて」

 美琴は、土産物屋の連絡先が書いてある紙を持った手を伸ばし、滝山が受け取ったのを確認した所で目の前が真っ暗になっていた。



「美琴……」

 どこかで自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。


 ――副社長……?


 美琴はふわふわする身体に響く低い声と心地よい香りに包まれて、深い眠りに誘われるように意識が遠くなっていった。
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