あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「千堂さん、悪いけどこれから城原さんと大切な用があるんだ。話は後日にしてもらえるだろうか? 」
「まぁ、城原さんと大切な用? もしかして、もうクビになる話でもされるんじゃないかしら? ねぇ、城原さん。貴方はここを辞めさせられても別に構わないわよね? 」
「え? 」
「だって貴方…あの城原コンサルティングの社長の子供だものね」
ニヤッと里菜は笑いを浮かべた。
「あら、ごめんなさいね。もしかして秘密にしていた? 悪いけど、私はなーんでも知っているのよ」
勝ち誇ったように笑いを浮かべる里菜を、ヒカルは無表情のまま見つめた。
「それがどうかしたのですか? 」
「なに? 居直るの? 」
「いえ、自分が誰の子供であっても。何か、貴女に関係があるでしょうか? 」
「別に私には関係ないわ。でも、きっとこの事を知られると貴方が困るんじゃないかと思って」
「いいえ、自分は特に困る事はありません。しかし、困るのは千堂さんの方じゃないのでしょうか? 」
ん? と、里菜は目を座らせた。
「人には知られたくない事が、いくつかあると思います。特に、過去の自分を知られてしまったり。人には知られたくない、身内の秘密を抱えていらっしゃる方もいると思います。きっと、千堂さんにも知られたくない事はあると思うのですが? 」
知られたくない事と言われ、里菜の表情がギクッと怯んだ。
「知られたくない事なんて…私にはないわ…」
そう答える里菜だが、声のトーンは低かった。
「城原さん、行こうか」
奏弥がそっとヒカルの手をとって、そのまま歩き出した。
奏弥に手を引かれて歩いてゆくヒカルをの姿を見ている里菜は、怒りが込みあがる中、何故か寂しさを感じている自分がいる事に気づいた。
(あんたの母親はね、気に入らない人間をことごとく殺してきた殺人鬼だったんだよ! まさに鬼畜だ! )
(人殺しの子供がよく生きていられるもんだ! )
(何でアンタなんか産まれて来たんだろうね! 産む方もおかしいわ! )
小さい頃の里菜がずっと周りの大人達から言われ続けてきた言葉が、頭の中をぐるぐると駆け巡り始めた。
物心ついた頃から里菜は、親戚の家をたらい回しにされていた。
赤ちゃんの頃は児童施設に引き取られていたが、2歳になる頃に母方の親戚が現れ里菜を引き取った。
だが親戚が里菜を引き取った目的は、里菜の母親が受け継いでいる資産と財産が目的だった。
母親から娘の里菜に受け継がれた事から、そのお金を奪う為に引き取ったのだが、その家には実の子供が一人いた。
里菜より2歳上の男の子で、一人息子として大切に育てられていた。
男の子の名前は康生(こうせい)と言って自由気ままで、表面的には明るい子供だった。
引き取られた里菜とは2歳違いで、とても仲良く育てられていた。
だが…。
里菜が小学生になる頃から、康生は何かストレスが多いのかだんだんと人格が変わって行ったのだ。