夜這いのくまさん

3

家に着くと、父親はいなかった。今日は泊まり込みで鉱山を掘っている。
野で捕まえたうさぎが餌を欲しがっているかのように鼻をひくつかせた。
人参を細長くきってやるとむしゃむしゃと勢いよく食べだした。
私はメモした薬草が家にあるか確認した。
戸棚に乾燥させた数々の薬草は、私の矜持を守るための最終手段だ。

もし、アーレットと結婚してしまったら。
もし、アーレットの前で別の男に犯されてしまったなら。
もし、アーレットとその後も生活をしなければならないのなら。

そう考えただけで虫唾が走った。死んでしまいたいほどに。

村の女は誰かしら夫以外の男に抱かれている。
下手したら、こどもはその時に出来た子の可能性があるのだ。

ごりごりとすり鉢にメモした薬草をいれ、すりつぶしていく。
つん、とした独特の臭いがしてくるが、それでもペースト状になるまで手はとめない。
久々に心から笑った気がしたのも束の間、村に帰ってくれば陰気がたちこめていてみるみる心はすり減った。ぐるぐる、と渦巻くのは村の憎悪だ。薬草は緑色からどんどんどぶのような色に変わっていく。それを丸めて、うさぎの人参の先に少しつけ餌をやる。
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