夜這いのくまさん
「シェリー嬢は……今、恋人などいるのか」

同じように頬張っていたパウンドケーキを喉につめて、思わずせき込んだ。
そして一気に現実に帰らせた。

「あぁ、ごめん。変な話だったな。いたらこれからは声をかけないほうがいいと思って」

「いません」

婚約者がいるとは言いたくなかった。これからもキース様と会いたいし、お話ししたい。
あの村から解放される束の間の幸せだと感じている。
ただのお茶会だ、誰にも咎められることはないが。

「いませんよ、そんな人」

「そうか、なら見かけたら声もかけるし、今度美味しいデザートがある店があって一人で行きにくかったんだ。アップルパイは好きか?」

「ええ、好きです」

「良かった!!」

なんて眩しい。その屈託のない笑顔は家族に愛されてきた人の笑顔だ。
羨ましいし、どうしても私が手に入らないものだ。思わず目を細めた。
母親の病んで頬がこけた顔も、父親の泥酔しているような顔も昔から馴染みの顔であるが私を愛しく思っている表情は見たことがない。
太陽のように明るく照らしてくれるキース様。
もう少しだけ、わたしと一緒に……。
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