湖面に写る月の環

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「……この子は?」
「あ、ああ、紹介がまだだったね。彼は俺の後輩の後輩。ちゅう秋くんは知っているだろう?」
「……ん」
「その子の後輩なんだって」
「いい子だから、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」と笑う岡名は苦笑いを零している。しかし彼の紹介を聞いても尚、ひがしの警戒心は弱まる事はない。そんな彼女に、探偵少年が大きく一歩を踏み出した。
「初めまして! 僕は探偵であり、神だ! どんなことでも気軽に相談してください」
「……はい?」
「あ、あー! いやっ、何でもないです!」
「ちょっ、先輩何するんすかっ」
「いいから、お前はちょっと黙っとけ!」
慌てて探偵少年の口を塞ぐ。しかし、怪訝な顔をした彼女の反応を見れば、それが既に手遅れである事は明白だった。
(なんで面倒事を大きくしようとするんだ、こいつはっ!)
折角岡名が当たり障りない感じで紹介してくれたというのに、それを一瞬にして不意にする彼の対応に、僕は頭が痛くなってくる。どうしてそう……どうしてそうなんだ!
「……」
探偵少年の言動に苦しんでいれば、ふと感じた視線に顔を上げる。ぱちりと合った視線は、気のせいではないだろう。盲目でも、視線で問いかけてくる様子は伝わるものらしい。
「あっ、す、すみません。僕はちゅう秋の同級生、です」
「……」
(け、警戒されている……!)
無言の圧力に、僕はひくりと口元を引き攣らせる。……もしかしたら、さっき急に大声をあげたからかもしれない。それで怖い人間だと思われてしまったのかも。
(全部こいつのせいだ……)
ガクリと肩を落とせば、探偵少年はよくわからないと言いたげに首を傾げている。その顔に拳の一つでも入れたくなるが、流石にそうはいかない。どうにか復活させる方法がないかと頭を悩ませていれば、ぽんと肩が軽く叩かれた。顔を上げれば、ちゅう秋と目が合う。頷く彼は、どうしてか心強く見えた。
「真偉さん。ちゅう秋です」
「……ちゅう秋くん?」
「ええ。ご無沙汰しております」
ふと、ちゅう秋の名前を聞いた彼女の肩から力が抜ける。知り合いの名前を聞いて安心したのだろう。彼女は握り締めていた岡名の腕を少しだけ解放し、小さく会釈をした。
「久し、ぶり」
「はい。今日はお招きいただき、ありがとうございます」
「……ううん。書いてくれたのは、彼だから」
(自然に話が出来てる……)
目の前で行われる自然な会話に、僕は瞬きを繰り返す。どうやら彼女はかなりの人見知りらしい。ちゅう秋と話している時も岡名の後ろから出て来ないし、時折助けを求めるように岡名を見ているのがわかる。
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