婚約者の浮気相手が子を授かったので
「ファンヌのことだから、彼らのことを気にするだろうと、ヘンリッキさんが言っていた」
 突然、父親の名が出たことにファンヌはパチパチと瞬きをする。
「リヴァスのことは、君の家族がきちんと面倒をみるはずだから、安心しろ。もし、君が望むなら、一度、向こうに連れていくが?」
 エルランドは転移魔法を使って、ファンヌを両親と会わせることを考えているのだろう。
 だが今、家族に会ったらエルランドの気持ちから逃げ出して、向こうに留まることを選んでしまうかもしれない。
「いえ。大丈夫です。せ……。エルさんの言葉を信じます」
「そうか。ああ、だったら荷物をヒルマさんに送るついでに、手紙も一緒に送ろうか? 君の近況を書けば、向こうもあちらの様子を教えてくれるかもしれないだろう?」
 エルランドの気持ちが、ファンヌにとっては素直に嬉しかった。
「考えておきます」
 そう口にして、エルランドと繋いだ手にきゅっと力を込めた。
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