婚約者の浮気相手が子を授かったので
 ファンヌがいたときは、彼女は黙ってクラウスの仕事を手伝い、工場の管理もして、さらに王太子妃教育も受けていた。ファンヌができていたことを、アデラにもやって欲しいと思っていただけなのに、彼女はそれすら拒む。
 そして、あのとき感じた違和感が次第に膨らんでいくのと同時に、近頃のアデラには魅力を感じなくなっていた。
 豊かであった茶色の髪は、少し乾いた感じがして手触りも以前と異なってきている。艶やかだった肌も、どこか潤いが足りていない。
 一つ気になるところが見つかると、次から次へと目につくようになるのが不思議だった。
 それに、アデラが断るごとに「ファンヌだったら――」とつい彼女と比べてしまう。
 そういった感情が、とうとうクラウスを動かしたのだ。
「アデラ。そろそろその子の魔力鑑定を行いたい」
 クラウスがアデラの前に立ち、見下ろしながらそう言うと、彼女は茶色の目を大きく開いて、驚いたように彼を見上げた。
 以前はその瞳を見つめるだけで吸い込まれそうだと感じた彼女の目を見ても、何も感じない。むしろ、くすんだ色にさえ見えてくる。
「魔力鑑定?」
 まるでその言葉を初めて聞いたかのように、アデラは問い返した。
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