婚約者の浮気相手が子を授かったので
『ええ。あの工場にあった薬草に違法薬草はありませんでした。ですが、長期間放置されたことによって、どうやら薬草の効果が変化したようです』
『変化だと?』
 クラウスの言葉に、調薬師の男は頷く。
『もう少し詳しく調べる必要はありますが。彼はその薬草のに()()によって、自我を忘れたようです。つまり一般的な薬草であっても、獣人の血を引く者にとっては違法薬草と同じような効果が得られるものがある。そういった薬草がありそうなのです』
 ふぅん、と腕を組みながらクラウスは話を聞いていた。クラウスにとっては薬草も薬も大して興味はないもの。とにかくあの工場で何かを始めて利益を出さなければ、また父親である国王から怒られる。
 その考えしかクラウスの頭にはなかった。

 その日の夜、クラウスは国王に呼び出された。
『騎士の一人が暴れたようだな』
 国王は琥珀色の液体が入ったグラスを傾け、何かを見定めるようなじっとりとした視線を、そのグラスに注いでいる。
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