婚約者の浮気相手が子を授かったので
 数人の騎士によって、彼は取り押さえられた。その場で異変をきたしたのは彼だけだった。
 すぐに『王宮医療魔術師』と『王宮調薬師』が呼ばれ、彼の診察にあたる。
『どうやら、彼はベロテニアの血を引く者だったようですね』
 医療魔術師の男がそう口にすれば、クラウスは眉間にしわを寄せた。
『ベロテニアだから、どうしたというのだ?』
『ベロテニアは、遥か昔に獣人が建国した国と言われております。つまり、彼らは獣人の血を引く者たちであり、少し我々と異なった特徴を持つわけです』
 そう言われると、そのようなことを学んだような気がしてくるクラウスであるが、それが今回の件と何の繋がりがあるのかまではわからない。
 医療魔術師は隣にいた調薬師の男に目配せをする。
『今回、暴れた男ですが。どうやらあの工場で使用されていた薬草の一部に過剰に反応したようです』
『薬草だと? あの工場で使っていた薬草は、一般的な薬草だったはず』
 クラウスは、ファンヌがそう口にしていたことを思い出した。
 薬草や調薬された薬には、『違法薬草』『違法薬』と呼ばれるものもある。これらを摂取した者は、気分が高揚し多幸感を味わうことができると言われている。そういった薬草や薬も一部の『調薬師』の研究対象にはなっているが、扱いは厳重に管理されているはずだ。
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