婚約者の浮気相手が子を授かったので
 手紙は、『国家魔術師』が転移魔法を使用して各国へ届ける。そのため、馬車で三十日もかかるリヴァス王国であっても、手紙であれば一日で届けることができるのだ。これは手紙のようなものだから転移させることができるのであって、大きい物や重量のある物になると転移させるのも難しい。だから、ほとんどの国では転移の対象物を手紙のみと決めている。
 エルランドが使っている転移魔法やそれの応用系は、ごくごく限られた人物しか使用することができない。そして、その限られた人物の一人がエルランド。
 となれば、まずはオグレン領に転移魔法で戻り、そこからは馬車を使うつもりでいるらしい。というのも、エルランドがパドマ入りしたことを、向こうの魔術師に知られたくないからのようだ。そこから、ファンヌがパドマに戻ったことをクラウスに伝えられるのを懸念したのだろう。
 エルランドは早速、マルクスに手紙を書いていた。それから、ファンヌの両親にも。ファンヌの両親への手紙は、薬草の定期便にのせる。
 だからファンヌの両親から、というよりもヒルマからすぐに返事が届いた。
『楽しみに待っています』
 その返事の下に、ベロテニアの染物がお土産で欲しいようなことが書かれていた。
 眉根を寄せたファンヌであるが、仕方ないので、ウロバトの露店で、伝統的な染物を買ってきた。
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