婚約者の浮気相手が子を授かったので
「エルさん。あの方たち、工場で『製茶』を行ってくれていた人たちです。え、皆さん、なぜこちらに?」
 エルランドに話しかけ、そして茶摘みの人に話しかけ。ファンヌの顔はあっちを向いたりこっちを向いたりで忙しい。
「パトマの工場からファンヌ様がいなくなったので、私たちも向こうを辞めてきました。そして、こちらで雇ってもらうことにしたのです」
「ヘンリッキ様たちが、私たちの仕事を準備してくださったので」
「あの工場はもうダメですよ。ファンヌ様がいなくなってからは」
 どうやらファンヌはリヴァス王国の現状を知らない様子であった。彼女が両親と手紙のやり取りをしているのは数回しか見たことがない。内容は、茶葉や薬草にする相談事が主だ。
 きっと近況報告などは行っていないのだろう。そういうところがファンヌらしいのだ。
 そういうエルランドも、パドマがどうなっているのかは知らない。特にパドマの人間とやり取りをする必要性がなかったからだ。
「そうだったんですね。もしかして、ベロテニアに送ってもらっていた荒茶も?」
「そうですよ。あそこで働いていた人たちで、荒茶にしてベロテニアに送ってました。そこまでの作業はいいんですけど、それ以降が大変ですからね」
 ファンヌと話をしていた女性がエルランドに気づいたようだ。
「あの、ファンヌ様……。こちらの方は、キュロ先生ですか? ですが、雰囲気がちょっと違う? 学校を辞められたとは聞いておりましたが。」
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