婚約者の浮気相手が子を授かったので
「そうです。パドマの高等学校にいた、エルランド・キュロ教授です。このたび、キュロ教授と婚約したので、そちらの報告のために戻ってきました」
 ファンヌの報告に目を丸くしたのは、茶摘みの人たちだけではない。エルランドもである。まさか、彼女がこのタイミングで婚約の件を報告するとは思ってもいなかったのだ。
「え? ファンヌ様が、キュロ先生と? え?」
「いや、絶対にあの王太子よりはキュロ先生の方がいいだろう?」
「そうそう。ファンヌ様が『調茶師』になった恩人だと聞いたこともあります」
「そういや、キュロ先生がいなくなってから……」
 ファンヌだけでなく、エルランドまで彼らの話題にあがってしまった。あまり人と触れ合うことが好きではなかったエルランドではあるが、彼らの話をニコニコと笑いながら聞いているファンヌがいることで、さほど嫌な気持ちはしなかった。それよりも、この話で得られた情報の方が大きかった。
「キュロ教授が辞めてから、『調薬』の世界で頭角を出してきたのはマルクス先生ですよ。最近、新聞を賑わせていますから」
 エルランドがリヴァスにいた頃から、調薬の世界ではマルクスかエルランドか、という構図ができていた。アプローチの仕方が異なっているため、単純な比較はできないが、恐らくエルランドの方が頭一つ分飛び出ていたのだ。何しろマルクスが力の入れていた研究は「頭髪を豊にする薬」なのだから。
 その彼が、エルランドがいなくなったことにより、他の調薬にも手を出し始めたのだろうと思われた。
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