婚約者の浮気相手が子を授かったので
 エルランドのその言葉でファンヌは思い出した。リヴァスにいた頃の彼は、いつもこんなむすっとしていて、何を考えているのかがわからないような表情であった。ベロテニアに行ってから、顔の筋肉が緩むことも増えたのだ。
「だが、気分は良くないかもしれない」
 むくれた顔でエルランドは言った。
「ファンヌが着飾っているからな。それにあそこには、あの(クソ)王太子もいるだろう」
「ですが、クラウス様にはアデラ様がいらっしゃいますし、私には未練などこれっぽっちもありませんよ。あ、もしかしたら、お子様が生まれていらっしゃるかもしれませんね」
 ファンヌの話を聞いたエルランドは、ふん、とそっぽを向いた。彼の複雑な気持ちが痛いほど伝わってくる。何よりもファンヌ自身が複雑な気持ちなのだ。今の婚約者と共に、昔の婚約者と再会するかもしれない、ということが。
 いや、どちらかというと、あの国王だ。
 ファンヌは膝の上に置いた手に、ぐっと力を込めた。

 研究発表は、王宮内にある大きな会議室で行われる。学術の都市パドマと呼ばれていることから、王宮では年に数回、研究発表が行われていた。もちろん、ファンヌもエルランドと共に壇上に立って発表をしたことがある。
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