婚約者の浮気相手が子を授かったので
 会議室に近づくにつれ、見たことのある顔ぶれが増えていく。エルランドも見知った顔があれば挨拶を交わしているのだが、相手の方が彼の変貌ぶりに驚きを隠せない様子であった。そして相手はエルランドの後方に控えているファンヌに気づき、気まずそうな表情を浮かべるのだ。ファンヌがクラウスとの婚約を解消した話は、とうに知れ渡っているのだろう。
 婚約を解消して、半年以上も経っている。その間、リヴァスにいなくて良かったのかもしれないと、ファンヌは心からそう思った。
 さすがにこのような場では、エルランドもファンヌと婚約したことを口にはしなかった。場をわきまえているのか、そこまで言う必要の相手ではないのか、どのように彼が判断しているのかファンヌは知らない。それでもここに、クラウスや国王がいることを考えると、エルランドからは離れたくないと思う。そんな彼女にエルランドも気づいたのか、話をしながらも後方にチラチラと視線を送っていた。
 パーティ会場のように、堂々とエルランドと腕を組むことができればいいのだが、ここは学問の場。お互いがお互いに我慢をしているのだ。
「ファンヌ」
 彼女が会議室へ入ろうとしたところ、名を呼ばれた。
 そして、こういうときに限ってエルランドは既に会議室内に入っている。というのも、マルクスが先にエルランドに相談したいことがあると言い、彼だけを先に連れて行ったのだ。
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