婚約者の浮気相手が子を授かったので
「いらっしゃいませぇ」
 店員の独特の口調が二人を迎え入れた。
「せ、先生……。外で待っていますか?」
 店内は、どこもかしこも女性用の下着で溢れている。エルランドがこのような店を知っていることに疑問を持ったファンヌではあるが、もしかしたらこの王都の全ての店を把握しているのかもしれないと思い、そこを追及することはやめた。
 だが、この店内にエルランドを入れてしまって良かったのかという気持ちはあった。
「そちらに休憩スペースがございますからぁ、お待ちでしたらそちらでどうぞぅ」
 女性店員は、こういったことにも慣れているのだろう。エルランドを壁一枚隔てた別室へと案内していた。だが、エルランドの目は切なそうにファンヌを見ていた。
(まさか……。一緒に選びたかったわけじゃないわよね……)
「お待たせしましたぁ」
 女性店員に声をかけられ、ファンヌははっと我に返った。
「どのようなものをお探しですかぁ?」
 店員に聞かれるまま答えるファンヌであるが、最終的に白い下着を購入してしまったのは、エルランドの言葉があったからかもしれない。
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