婚約者の浮気相手が子を授かったので
 お腹もいっぱいになった二人は、レストランを出た。ファンヌが自分の分を支払おうとしたら、エルランドが「君の両親から生活費を預かっているから」という理由で全てを支払った。ファンヌは、両親がどれくらいの金額を生活費としてエルランドに渡しているのかを知らない。だから、どれくらい彼に甘えたらいいのかがわからない。
 お昼の時間帯も過ぎたためか、人でごった返していた食べ物を扱う露店の前からも、人だかりはなくなっていた。通りにいる人もまばらだ。
「先生は、リヴァスにいたときもこちらには戻ってきていたのですか?」
 エルランドは十三才でリヴァスに留学したと、リクハルドが言っていた。
「そうだな。長期休暇のときは、たびたび」
「転移魔法で?」
「ああ。オレの国籍はこちらにあるから、リヴァスからこちらに来る分には手続きがいらない」
「ですから。転移魔法って高等魔術ですよね」
「こちらの王族であれば、誰でも使える。ああ、ここだ」
 エルランドが立ち止まったのは、ラベンダー色の外壁が特徴的な建物であった。他の建物よりも幻想的な雰囲気がある。入り口に張り出している天幕の色は青。青は衣類を扱う店。
 扉を押して中に入ると、花の甘い香りが店内に漂っていた。
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