ビター・マリッジ

その夜。先に一人で夕食とお風呂を済ませた私が寝室に向かおうとしていると、ようやく幸人さんが帰宅した。

リビングの外まで出迎えると、幸人さんが私の顔を無表情でじっと見てきた。


「おかえり、なさい……」

感情の読めない――、というよりは、少し怒っているようにも見える幸人さんの表情に、萎縮してしまう。

思わず一歩後ずさると、幸人さんが大きな歩幅で廊下を歩きながらため息を吐いた。


「今日の昼は、どうして勝手に帰ったんだ?」

私の横を通り過ぎるときに、幸人さんが低い声で訊ねてくる。


「データを渡す役目は果たしたので……」

「ロビーで十分は待ってたんだろ。それなのに、どうして俺に直接声もかけずに帰った?」

幸人さんだって、データだけ預けて去った私にメッセージひとつよこさなかったくせに。それなのに、珍しく私のことを問い詰めてくる。


「き、急用ができてしまって……」

「それは、俺のオフィスに来る前にわからなかったのか? 一緒に食事をするという話だったから、近くの店を予約してた」

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