ビター・マリッジ
動悸が治ったのを確認してからよろよろと立ち上がると、幸人さんのスーツのジャケットがソファーに置きっぱなしになっているのが見えた。
皺にならないように、ハンガーに掛けておかないと。
ふらふらとソファーまで歩いて行って、ジャケットを手に取る。
その瞬間、お酒と煙草の匂いに混じって、幸人さんのものとは違う香水の匂いが漂ってきた。
甘い花のようなその香りが、ふと、昼間に幸人さんと並んで歩いていたら綺麗な女性を思わせる。
幸人さんは仕事で飲んできたと言っていたけれど、そこに彼女もいたのかもしれない。
そもそも、仕事だったという幸人さんの言葉が事実かなんて、私には確かめようもない。
そう思うと、また心臓がドキドキと速く鳴り始めた。
でも、激しい動悸の理由はさっきとは違う。幸人さんのジャケットを抱きしめた私が感じているのは、不安以外の何物でもなかった。