ビター・マリッジ

動悸が治ったのを確認してからよろよろと立ち上がると、幸人さんのスーツのジャケットがソファーに置きっぱなしになっているのが見えた。

皺にならないように、ハンガーに掛けておかないと。

ふらふらとソファーまで歩いて行って、ジャケットを手に取る。

その瞬間、お酒と煙草の匂いに混じって、幸人さんのものとは違う香水の匂いが漂ってきた。

甘い花のようなその香りが、ふと、昼間に幸人さんと並んで歩いていたら綺麗な女性を思わせる。

幸人さんは仕事で飲んできたと言っていたけれど、そこに彼女もいたのかもしれない。

そもそも、仕事だったという幸人さんの言葉が事実かなんて、私には確かめようもない。

そう思うと、また心臓がドキドキと速く鳴り始めた。

でも、激しい動悸の理由はさっきとは違う。幸人さんのジャケットを抱きしめた私が感じているのは、不安以外の何物でもなかった。

< 37 / 137 >

この作品をシェア

pagetop