ビター・マリッジ
これまであまり積極的に会社の飲み会に参加してこなかった私は、同僚たちとそこまで仲が良いわけではない。
それでも、お酒を飲みながらみんなの話を聞いているあいだは幸人さんのことを考えずにいられたし、気が紛れた。
今夜の飲み会に誘ってもらえて、本当にありがたかったと思う。
「旦那さんに嫌がられたりしないなら、また四ノ宮さんのことも飲み会に誘うよ」
「うん、ありがとう」
「みんな行っちゃうし、四ノ宮さんも……」
駅が近付いてきたところで、小山くんが先に改札へと進んでいく他の同期たちに追い付こうと歩みを速める。
私も彼に着いて急ごうとしたとき、ふと駅前のタクシー乗り場に並ぶ人たちの後ろ姿に目が留まった。
よそ見しながら歩くスピードを緩めると、私が着いてこないことに気が付いた小山くんが足を止める。
「四ノ宮さん?」
呼びかけてくる小山くんの声を意識の端で聞きながら、私の視線はタクシー乗り場に入ってきたタクシーに乗り込もうとしている男女の姿に釘付けになっていた。