ビター・マリッジ


「ごめんなさい。大丈夫……」

「調子悪いなら、タクシーで帰る?よければ、乗る直前まで付き添うけど」

「大丈夫、みんな行っちゃうし……」

だけど、私と小山くんが立ち止まっていたことに気付いた人は誰もいなかったらしい。

先を歩いていた同僚たちの姿は、既に改札の奥へと消えていた。


「ごめんなさい。私が立ち止まったりしたから……」

「いいよ、いいよ。むしろ、ごめん。急に誘って酒飲ませたせいで、体調悪くさせたなら申し訳ない」

「体調は、大丈夫」

困ったように眉尻を下げる小山くんに、ゆるりと首を横に振る。

けれど、秘書の女性とタクシーに乗り込む幸人さんの姿を目撃してしまった私の心はとても空虚だった。

このまま帰っても、幸人さんは家にいない。

幸人さんが秘書の女性と向かった場所はどこなのか、ひとりきりの部屋でそのことばかりを考えながら、悲痛な気持ちで彼の帰りを待たなければいけない。それなら……。

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