ビター・マリッジ

私は深く考えることもせずに、目の前の小山くんの手をとった。

「小山くん、まだ時間ある?」

「え、うん。あるけど……」

「だったら、もう一軒行かない?」

「え、でも……」

口籠もった小山くんは、私が二軒目に誘った意図を図りかねているようだった。

あまりにも突然だし、彼は私が既婚者だと知っている。戸惑わせて当然だ。

だけど、普段自分から誘いかけたりしない私が誘ったことに、何かを察してはくれたらしい。


「俺はまだ全然時間あるけど……四ノ宮さん、体調は? 遅くなって平気なの?」

突然の誘いだったのに、小山くんが私のことを突き放したり無視したりせずに、気遣うような言葉をかけてくれたから嬉しかった。


「うん、平気。もし小山くんがお酒を飲む気分じゃなかったら、ちょっとだけコーヒーに付き合ってくれるだけでもいい」

ふっと笑ったら、小山くんが数秒私を見つめた後に口角をあげた。

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