ビター・マリッジ
◇
石原さんの送別会が終わって家に帰ると、少し遅れて幸人さんが帰宅した。
「おかえりなさい。ちょうど今、お風呂のお湯を沸かし始めたところです」
「あぁ」
バスルームからリビングに戻ろうとしていたところで帰ってきた幸人さんに声をかけると、彼が短く答えて私のことをじっと見てきた。
何かおかしなところでもあるだろうか。
帰宅早々、幸人さんからこんなにもじっと見つめられることは珍しい。
「そっちも、帰ったばかりなんだな」
さりげなく髪や顔や服を触っておかしなところがないか確かめていると、玄関からあがってきた幸人さんが、私の横を通り過ぎながらつぶやいた。
「え、あ、はい……」
つい十五分ほど前に帰宅したばかりの私は、まだ仕事用のスーツを着たままだった。