BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに
「その場合は、王宮魔導士に頼むしかありません」
 医師の言葉を耳にしたクラレンスは、再び眉根を寄せて何かを考えている様子であった。
「では、私はこれで、失礼いたします」
 往診用の鞄を閉め、立ち上がった医師はいそいそとジーニアの部屋を出て行った。
 クラレンスと二人きりになってしまったジーニア。もちろん彼女の頭の中は『王宮魔導士』で埋め尽くされている。

 ――王宮魔導士と言ったら、ジュード様よね。

「ジーニア嬢」
 クラレンスの低い声で名を呼ばれ、ジーニアははっと我に返った。

「傷はまだ痛むのか?」
 クラレンスが寝台に座ったため、そこはギシッと軋んだ。寝台の軋む音はよくわからないが緊張感を孕む何かがあると思っているジーニアにとって、その状態のクラレンスは非常にまずい。何がまずいか。
 まず、ここにいるべき人物は自分ではないということ。今、自分がシリルであったならば、という妄想。
 をしつつも、クラレンスがジーニアの顔を覗き込んできたため、ジーニアもじっと彼を見つめ返した。

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