BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに
 彼の熱い吐息が頬に触れる。指が頬をなぞり上げ、顎をとらえた。唇に触れる柔らかい感触。

 ――もしかして私、クラレンス様と……。

 唇が解放された。

「ジーニア嬢……。どうか、私の名を呼んで……。その目に私を映して……」

 ――私もクラレンス様のお顔を見たい……。

 再び、唇を塞がれる。ジーニアにとって誰かと触れ合あっている事実が、この暗闇の中で一人ではないことの証。

 呼吸を求めるかのように、ジーニアの口が開く。恐らくクラレンスは気付いたのだろう。ぱっと唇が自由になった。

「ジ、ジーニア嬢……」

「クラレンス、さま……」
 絞るかのような弱弱しい声色で、ジーニアは彼の名を口にした。

 ――声が出た。身体はまだ重いけれど。

< 152 / 168 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop