BでLなゲームに転生したモブ令嬢のはずなのに
 ――私、斬られた? 刺された?

 バルコニーの方からクラレンスに向かって何かが飛んできたことに気付いた。それはあのモブ的偉い人が合図をしたからだ。せっかくシリルから毒入りじゃないグラスを受け取ったクラレンスなのに、予想外のアレで命を奪われてしまってはヘレナとの約束を守ることもできない。いや、クラシリを拝むことができない。
 と思ったら身体が勝手に動いた。
 他の人は乾杯の儀の準備で、モブ的偉い人の動きとその視線の先にある怪しげな人影にも気付いていない。だから、何かが飛んできたことにさえも気付いていない。
 気付いたのはジーニアだけだったのだ。これぞ、愛。さすが腐の愛。腐愛と呼びたいくらいだ。
 ジーニアに、ジェレミーのような機敏な動きがあれば、その飛んできたものを足蹴りや手刀でバシュッとかっこよく軌道を反らすことができただろう。だが、ジーニアはジーニア。中の人の記憶があったとしても、中の人も格闘技やスポーツをやっていたような人物ではなく、ただの腐女子であったため、やはり機敏な動きはできない。できることといえば、その身を挺してクラレンスを飛んできた何かから守ることだけだった。
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