エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
緊張するわたしに気がついたのか、慧さんは赤信号で止まると手を握ってきた。
力を込めていた手は汗でじっとりとしていて恥ずかしい。

「大丈夫だから、俺を信じて」

心臓がきゅうと跳ねる。
不安にだけではないドキドキが加わり、わけがわからなくなった。

せっかく予定を組んでくれた慧さんに申し訳なくて、買い物が怖いと言えない。

(本当に辛くなったら、ちゃんと帰りたいって伝えればいい)

覚悟して頷くと、ちょうど信号が青になる。

車が発進すると、目的地のデパートはすぐに見えてきた。慧さんは地下駐車場へと車を滑らせる。緊張で吐きそうだった。

(あれ?)

ふと窓の外を見ると、駐車場には車が一台もない。
いつもの見知った雰囲気ではない。もしかして、休業日ではないだろうか。

「行こう。ほしい物は決まってる?」

慧さんは先に車を降りると鋭く周囲に視線を走らせる。助手席までエスコートしに来てくれ、わたしが降りると肩を抱いてエレベーターに乗り込んだ。

インフォメーションのある一階へと着くと、ちゃんと受付の人がいた。
スーツ姿の男性もいて、男性は慧さんを見ると挨拶をした。

「梧桐様、いらっしゃいませ」

名指しにびっくりする。常連なのかな。

売り場の電気もついているので、休みは勘違いのようだ。でも、他に客の気配がないのはなんでだろう。

「用事ができたら呼びます」

「かしこまりました。ごゆっくりお楽しみください」

男性は会釈をするとすぐにその場を離れてしまった。

(どういうこと?)

「お知り合いなの?」

「母親が外商の常連なんだ。あの人はいつも担当してくれている人。さあ、二時間ほど時間をもらってる。服? 化粧品? アクセサリーかな。どのフロアから回ろうか」

慧さんは張り切って、エレベーター前の案内板へと向かう。
腕を引かれ、わたしは慌てて追いかけた。
二時間ほどって、どういう意味だろう。
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