エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
行儀が悪いかなと思ったが、バトラーがまだ部屋をでていないのに、すぐに手紙を開いた。
何が書いてあるのかな。
緩んでいた顔が凍りつく。

『どこへ行こうと僕はいつもすぐ近くで詩乃を見てるよ。詩乃が愛しているのは僕なんだから、間違っちゃだめだよ。もうすぐ迎えに行くからね』

真っ白な便箋に、赤いインクで書かれた文字。
異様だった。

「ーーーーえ? や、やだっ……何これっ」

手紙を払いのけ、席を立った。慌てて立ったため、テーブルが揺れて紅茶が零れた。

「どうされました?」

バトラーが手を伸ばす。
ぬっと迫った手に、以前の店での出来事が蘇った。

「きゃーーーー!! いやーーーーっっ」

手をはらいのけ、ガタンガタンと椅子にぶつかりながら床に蹲った。
ちょうど慧さんが戻ったらしく、駆け込んできた。

「貴様!! 何をしている!!」

「あ、梧桐様……?!」

慧さんはものすごい形相で駆けよると、そのままバトラーにタックルをかました。

「うわあ!」

バトラーはひっくり返る。

「どうやって潜り込んだ! 侵入罪と暴行罪でしょっ引いてやる!」

慧さんはバトラーを床に押さえ、背中に向けて腕を捻り上げた。

「いたたたたた!! あっ梧桐様ーーーーっ!! 痛い!」

バトラーが叫ぶ。
すると、慧さんははたと動きを止めて眉をしかめた。予想した反応と違う。
しかし、拘束する手は緩めない。

「貴様、詩乃に何をした」

慧さんは凄んだ。

「っな、なにもしておりません! 梧桐様から軽食を出すようにと仰せつかって……!!」

「俺はルームサービスは頼んでいない」

(慧さんじゃない……?)

「じょ、女性です。女性の梧桐様からっ」

そろりと顔を上げると、訝しげな慧さんと目が合った。
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