エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~
「女? 母の事か?」

「いえ……たぶん、母君ではないです。聖良さまとはお話させていただいたことがあるので、わかります。
もう少し声のお若い方で……梧桐様のお名前でご連絡くださいました。極秘のはずのお部屋のご手配について知ってらっしゃったので、てっきりご親族かと……」

「詩乃、立てるか。俺の後ろに」

わたしは頷いたが立てなかった。
這って移動し、慧さんの背中に隠れる。
大きな背中に安心し、無我夢中で抱きついた。

「な、なにか粗相がありましたでしょうか……」

バトラーの人は顔を青くしている。この人は手紙の主ではないの? それとも、慧さんが現れたから演技?
まだ怖くてしかたがない。

「詩乃、話せるか?」

わたしは震える声で言った。

「て、手紙、が……」

「手紙?」

慧さんは落ちている手紙を見つけると、手を伸ばし拾った。 目を通すとすぐに顔を険しくする。

「これは……!」

「ひいっ!」

怒りが再熱した慧さんは、バトラーをきつく締め上げる。

「この手紙はお前が書いたのか」

地を這うような声だった。
顔の前に手紙を垂らす。
バトラーはそれを見ると、大慌てで首を横に振った。

「違います! フロントに預けてあるから、手紙を受け取ってからルームサービスへ運んで欲しいとっ。わたしはこのような内容のものだとは知らずっ……申し訳ございませんっ」

「お前の名前は」

答えないと、命があぶなく感じるほどの迫力だ。

「伊藤です! 部屋付きのバトラーの伊藤と申しますっ!」

慧さんは支配人に電話をし、担当バトラーの名前を確認する。
長く勤務しており不審な点もなく、彼は本物のバトラーだった。
手紙の話も本当で、フロントから、女性から預かったという証言もとれた。
慧さんは確認を終えると彼を解放した。
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