Macaron Marriage

12 突然の来訪

 萌音は久しぶりにブラウスとスカートに身を包み、作業部屋で問い合わせのメールに返信をしていた。

 時計をチラチラと見ながら、上野夫妻との打ち合わせ時間ギリギリまで打ち込みの作業をする。質問に関してはQ&Aのコーナーを設けていたが、料金や打ち合わせの回数、納期に関する細かい情報を知りたい顧客への回答をしていく。問い合わせが来店に繋がるように、萌音もなるべくわかりやすく返答をするようにしていた。

 その時に上野夫妻の到着を告げるチャイムの音が鳴り、萌音はハッとしてパソコンを閉じる。作業部屋のドアを開けて外に出ると、すでに華子が二人を出迎えているところだった。

 すると萌音に気付いた紗世がにこやかに手を振る。ふんわりとしたラベンダー色のワンピースにコートを羽織る姿は自然だったが、やはりお腹の辺りが少し膨らんできているように思えた。

「お久しぶりです、池上さん!」

 初めての出会いからニヶ月。メールなどでやり取りをしながら、実際に会っての打ち合わせが二回目となった今日は、デザインの確認、仮縫い段階での最終調整となる。

「わざわざお越しいただきありがとうございます。式の打ち合わせは順調に進まれましたか?」
「ええ、メールや電話でも話をしていたのでスムーズに進みましたよ」
「そうですか。それは良かったです。ではこちらへどうぞ」

 今日はレンタカーを借りてきたということで、翔は式場で二人を見送ったらしい。

 二人を打ち合わせ用の居間へと案内してソファに誘導する。サプライズも兼ねて二人の前に置かれたマネキンにはカバーをかけておいた。

 そのマネキンを見つめる紗世の目はキラキラと輝き、そんな紗世を波斗も愛おしそうに眺めている。

 二人の様子を見ていた萌音は緊張しながらもマネキンに被せていたカバーを外した。そこに現れたのは、紗世が希望した星柄のレースが美しく輝くドレスだった。

「今は仮縫いの状態なので、本日このデザインで了承いただけましたら本縫いに進ませていただきますね」

 胸の下に切り替えが入り、肩まで広がった大きな襟がまるで袖のような役割を果たしている。そして胸の切り替えから裾まで星柄のレースがふんわりと広がっていた。
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