Macaron Marriage

1 いきなり婚約

 高校二年生になったばかりの金曜日。学校から帰ったばかりの萌音は、突然父親にリビングに来るよう呼び出された。

 着替えもまだだし、小腹も空いてるし、でも父親を待たせるわけにはいかず、仕方なく萌音はリビングへ向かう。

 するとソファに座っていた父親が萌音を手招きし、正面のソファに座るように促した。

「何かあったの?」

 そう言いながらソファに座った萌音に、父は喜びなのか困惑なのか、微妙な表情を向ける。

「萌音に大事な話があるんだ」

 大事と言われ、萌音は急に身構える。こういうタイミングで良い話が出たことはなかった。

「な、何かしら?」
「実はな、萌音に縁談の話が来ているんだ」

 萌音は血の気が引くのを感じた。縁談? 今パパは縁談っていった? 私の聞き間違いじゃない?

「も、もう一度言ってくれる?」
「だからな、萌音に縁談の話が来ているんだ。というか、もうこれは決定事項だから」
「ちょ、ちょっと待って! そんなの初耳なんだけど!」
「だって今初めて話したし。いやぁこんなドラマチックな縁談もあるんだなぁとパパはびっくりしたよ〜」
「待って待って! なんで会ったこともない人との縁談がロマンチックなの? しかも私の同意なしに決定事項ってどういうこと? それってもしかして……」
「そう。婚約成立。なんだか漫画みたいな話だなぁ。高校二年生で婚約者がいるなんて」
「私は嫌だよ! なんで会ったこともない人と結婚しなくちゃいけないの? 私にだって恋愛する権利はあるよね⁈」

 すると父親が真面目な顔で萌音を見つめる。その目力にやられ、萌音は思わず口を閉ざした。

「まぁこれも池上の家に生まれた宿命だな」
「……ということは、仕事に関係のある家の方なの?」
「そういうことだ」

 池上の家は祖父の代から始めたブライダルジュエリーを中心に扱う店を全国に展開しており、様々な業界の人脈を持っている。そのため、仕事の関わりで結婚が決まることもあるかもしれないと、小さい頃から言われてきたのだ。

 とはいえ、家業は姉が継ぐことが決まっていたため、萌音はいつかこの家から出ることになるだろうと漠然と思っていたのだ。
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