Macaron Marriage
 それがどうして婚約なの⁈ 意味がわからないんだけど⁈

 釈然としない様子の萌音に、父親は笑顔を向ける。

「ただ相手の人は全く知らないというわけでもないんだよ」

 ということは、どこかのパーティーとかで会ったことがあるのかしら……? でも興味がなくて上の空で参加していたから、誰がいたかなんて覚えているはずもなかった。

「相手の名前はな……」

 父親がそう言いかけた時、萌音は咄嗟に両耳を塞いで大きな声で叫び出した。

「わ〜っ!」
「も、萌音⁈」
「聞かない! 聞こえない! 知らないんだから〜!」

 萌音は父親をキッと睨みつける。

「私の知らないところで勝手なことしないで! とりあえず婚約は保留よ。パパが決めちゃったかもしれないけど、私の中では保留なの! だから相手の人の名前は聞かないし、聞きたくない。まだ私は何にも縛られたくないんだもん!」

 すると父親は肩を落として両手を挙げた。萌音の頑固さは昔から変わらない。きっと今何を言っても、彼女の怒りを倍増させるだけだった。

「わかったよ。萌音の気持ちは相手の方には伝えておく。だけどこれで婚約がなくなったわけじゃない。いつかはその人と結婚するんだ。わかったね」
「……嫌よ……」
「ん? 何か言ったかい?」

 父親にキッと睨みつけられ萌音は怯んだ。

「わ、わかったわよ! そういう心づもりではいる! でもね……パパなんか大嫌いなんだから〜!」
「萌音⁈ それはパパ悲しいぞ!」
「知らな〜い!」

 リビングを飛び出した萌音は階段を駆け上がると、自分の部屋へと入りベッドに飛び込んだ。それからこぼれ落ちる涙を枕カバーに押し付け、静かに泣いていた。

 パパなんか大嫌い。でも涙の理由はきっとそれじゃないの。婚約をするということは、結婚が決まったということ。私は誰かに恋をする権利がなくなってしまった。

 そりゃこの先恋をするかはわからないけど……それに私にはずっと忘れられない人がいる……その人への想いも断ち切らないといけないんだ。

 自由になれると思っていたのに、自由どころか私の未来は"婚約"という二文字に縛り付けられてしまったのだ。
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