Macaron Marriage
* * * *

 鏡の前に立ち、萌音は自分自身を写しては何度もポーズを変えながら服装の確認をする。

 クローゼットの中身と相談しながら決めたのは、白いレースのブラウスと、フレアのピンクのスカートだった。それから髪を一纏めにして、パールがたくさん使われたヘアクリップをつけた。

 レストランでお食事だし、やっぱりドレスコードとかあるのかな? 正解がわからず、鏡を見るたびに混乱する。ちょっとお堅いかな……もっとこう、胸元が開いたりした方がいいのかしら……。

 萌音はふと思い出したかのように、ブラウスの襟元に翔からもらったブローチも付ける。

 そんなふうに悩んでいる間に、来客を知らせるベルが鳴る。華子は仕事を終えて帰ってしまったため、慌ててインターホンの通話ボタンを押しに行く。

『こんばんは』

 インターホンの画面に映る店長の姿にドキドキしながら、萌音は深呼吸をした。

「い、今行きます!」

 用意しておいたカバンを手に取ると、玄関に急ぐ。久しぶりに少しだけヒールのある靴を履くと、背筋がシュッとなるようだった。

 ドアを開けて外に出た途端、ほんのり秋を告げる風が頬をかすめる。目を細めた先に店長の姿を見つけ、萌音は足早に彼の元へ駆け出した。

「お待たせしました!」
「慌てなくても大丈夫ですよ。こちらこそ少し早く到着しちゃいましたか?」
「いえいえ! 準備万端でしたよ!」

 しかしそう言った瞬間、慣れないヒールにバランスを崩して倒れそうになってしまう。そこを瞬時に店長が伸ばした腕に抱きとめられる。

「大丈夫ですか?」

 店長の腕は思っていたよりも筋肉質で、想像していたよりも力強く、そして何より柑橘系のいい香りがしたため頭がクラクラしてしまう。

「す、すみません! 助けてくださってありがとうございます!」

 戸惑う萌音を見ながら店長はクスクス笑っていた。まるで萌音の反応を楽しむかのように、わざと抱きとめたままでいるように思えた。

「あ、あの……店長?」
「その呼び方、やめましょうか」
「えっ……」
「良かったら名前で呼んでください。私もこれからは萌音さんと呼ぶので」
「な、名前ですか⁈」
「ええ。今は近所で同じ業界で働く者同士。仲良く出来たら嬉しいですから」

 店長の笑顔が眩しくて、モジモジしながら上目遣いで彼の顔を見上げる。

(かける)……さん?」
「うん、いいですね。それでいきましょう」

 ようやく彼の腕から解放されたものの、体中が火照って、心臓の音がうるさいくらい耳に届いた。
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