Macaron Marriage

「あら、随分と親しげでしたがどなたです?」

 背後から華子の声がして、萌音は驚いて飛び上がる。

「あっ、大学時代の行きつけのお店の店長さんだったの! フランスに行く時も背中を押してくれて……だからずっとお礼が言いたかったんだけど、まさかこんな所で再会出来ると思ってなかったからびっくりしちゃった」

 モジモジしながら顔を真っ赤に染めている萌音を見て、華子は何かを察したようにニンマリと笑う。

「それだけですか?」
「えっ……!」
「あの人、萌音さんのいい人なんじゃないかなぁと思っただけです。違いますか?」

 その瞬間、萌音は両手で顔を覆う。そして頭の中に先程の店長の姿を思い起こした。なんだかあの頃より大人の色気が漂って、更に魅力的になっていた。やっぱりカッコいい……。

「で、でも! もしかしたら結婚してるかもしれないし!」
「既婚者が食事に誘うんですか? それが事実なら最低な男ですが、指輪もしてなかったですしね」
「それに私、婚約者が……」
「それはそれ、これはこれです。会うだけはタダですからね! とりあえず今夜確認しないと!」
「うっ、そ、そうよね!」
「そうです。それから身支度もきちんとしましょうね」

 華子にそう言われ、萌音は改めて今の自分の姿を確認する。ほぼ部屋着の自分に項垂れ、門に倒れかかる。

「やだ私……こんな格好で店長と喋っちゃった……恥ずかしい! というか、店長幻滅したりしてないかしら⁈」
「してたら食事には誘わないと思いますよ」
「そ、そうよね! よし、久しぶりにちゃんとした服を着ないと!」

 想定外の事件勃発だわ……ドキドキが止まらなくなってる。
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