Macaron Marriage
* * * *

 明日のことを考えるだけで緊張してしまい、なかなか眠ることが出来なかった。布団の中で何度も寝返りを打ちながら、今日一日の間に起きたことを振り返る。

 仕事部屋にこもって注文を受けたドレスのリメイクの作業をしていたら華子さんに呼ばれて外でランチを食べて、そうしたら突然翔さんがやってきてディナーに誘われて……。それから翔さんが家に迎えに来てくれたと思ったら、お互い名前呼びして、手を繋いで……。あぁどうしよう。もう夢みたい。

 萌音は頬をつねってから、ニンマリと笑ってしまう。夢じゃないのはわかってるけど、確認したかった。

 だってこんな日が来るなんて思ってもみなかった。会えたとしても、せいぜいお土産を渡すくらい。ただ彼との接点は何もないから、それすら出来ないと思っていた。それなのに……。

 萌音はパッと起き上がると、慌てて机のそばまで駆けていく。そして机の上に置いてあった小箱を手にして安堵した。

 ようやくこれを渡せるんだ……喜んでくれるといいな……。

 それはフランスにいる時に蚤の市で見つけたものだった。休みのたびに探し歩いて、彼に似合いそうなものを見つけたのだ。

 萌音はそっと小箱を机の上に戻し、その隣に置いておいたブローチに触れる。

 翔さんがいてくれたからフランスに旅立てたけど、帰国しちゃったんだもの。これからはそう簡単には逃げ出せない。この蝶のように再び飛び立つことはもう無理ね。

 あーあ、これからは(かご)に閉じ込められた蝶なんだ。自分の意思で未来を決めることは許されなくなる。わかっているし、覚悟もしてる。散々逃げ回って自由に生きてきたんだしね。そろそろ親のためにも観念しないと。

 というか、こんなに逃げ回っている私を気長に待っている婚約者ってどんな人なのかしら。相当心の広い人に違いないわ。もしそうなら、私を自由にしてくれたりするのかな……いやいや、そうとも限らない。自分に都合の良い妄想をするのはやめておこう。それにあと八ヶ月はまだ自由だもの。悔いのない八ヶ月にしないと。

 萌音は拳を握りしめて頷くと、興奮冷めやらぬまま、布団の中に潜り込んだ。
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