Macaron Marriage
* * * *

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。家まで送るという翔の言葉に甘えて、萌音は家までの道を並んで歩いていた。

「翔さんは四年前からこちらに?」
「そうですね、大半はここにいます。フランスでも少し携わっている事業があって、そのために行き来はしてますがね」
「事業?」
「そう。さっき萌音さんが飲んだシャンパンやワインは、提携しているワイン工房のものなんです」
「えっ、すごく美味しかったです!」
「そう言ってもらえると嬉しいな。実は大学時代の友人の農園のものなんです。だから彼に会いに時々渡仏してるってわけです」

 フランスと聞くと、どこか寂しい気持ちになる。突然の帰国の話ではあったけど、タイミングは悪くなかった。それでもなんとなくあの場所に置き去りにしてきてしまったものがあるような気がして、スッキリせずにモヤモヤしてしまう自分がいる。

「また行きたいですか?」

 そう問いかけられて、萌音は静かに頷いた。

「移住したいとかそういう訳ではなくて、ただ慌ただしく帰国してしまったので、もう少しゆっくりと気持ちの整理をしたかったなって思うんです」
「じゃあ……いつかまた行けると良いですね」

 どうしてこんなに自分のことを話してしまうんだろう……。きっと彼が聞き上手なんだわ。だからつい話したくなってしまうの。

 四年ぶりに会ったとは思えないほど、萌音は翔に心を開いていた。

 行きよりも遥かに帰り道は時間が短く感じた。家の門の前に到着すると、なんだか心細くなる。もっと一緒にいたいと思うのが不思議だった。

 門を開けて中に入ると、翔は早く施錠するように促す。それから門の隙間から手を入れると、そっと萌音の頭を撫でた。

「ちゃんと鍵をかけてくださいね。では明日また伺います。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい……」

 そのやり取りに胸が高鳴る。彼の背中を見送るのがこんなにも苦しい。だけど明日も会えると思うと、それだけで心が満たされた。
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