Macaron Marriage
* * * *

 あれは翔が中学三年生の夏の日、父が新しく式場を作ると言い出した場所に、視察も兼ねて家族で訪れていた。貸別荘に宿泊していたものの、遊び疲れた弟が先に寝てしまい、暇になった翔は別荘を抜け出したのだ。

 カブトムシとかいないかな……そんか呑気なことを考えながら歩いていると、一際大きな別荘が目に入る。昼間も近くを通ったが、その時には誰もいなかった。

 今は建物の中に灯りが見える。ということは人がいると言うことだ。どんな人が住んでいるのか気になった翔は、ちょうど木の影になる場所を見つけ、軽々と塀の上に飛び乗った。

 中の様子まで見えなかったこともあり、諦めて帰ろうとした時だった。突然二階の窓が開く音がして、翔はビクッと体を震わせる。

 恐る恐る葉の間から覗き見てみると、長い黒髪でつぶらな瞳の女の子がうっとりと星空を見上げていたのだ。

 男兄弟な上、中学から男子校に通っている翔にとって、パジャマ姿の女の子を見ることなんて有り得ないことだったから、少しドキドキしてしまう。

 同じ中学生だろうか。それとも小学生? そう思いながら、つい彼女に見惚れてしまう。

 話してみたいな……でもいきなり声をかけられたらきっと驚くよな。親を呼びに行くかもしれない。もしそうなったらダッシュで逃げればいいか。翔は意を決して口を開いた。

「なにしてるの?」

 翔の声が聞こえたらしい彼女は驚いたように辺りを見回す。明らかに警戒している。女子に免疫がないからか、その仕草すら可愛いく見えた。

「あはは! そっちじゃないって! こっちこっち!」

 彼女はじっと目を凝らして翔の姿を確認すると、怯えたように口を閉ざして後退りした。
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