Macaron Marriage
「あっ、ちょっと待ってよ! 大丈夫、僕はここから動かないからさ。少しだけお喋りしない?」

 彼女はゆっくり振り返ると、再び窓のそばへと歩いてくる。

「……絶対にそこから動かないって約束出来ますか?」
「あぁ、戻ってきてくれた! もちろん、約束するよ。じゃあお喋りに付き合ってくれるの?」
「……少しだけ。もう寝る時間だから」

 想像通りの柔らかな高い声にときめく。戻って来てくれたことにホッとしつつ、どうしたら彼女を安心させられるかを考え始めた。

「名前って聞いてもいい?」
「……嫌です」
「ふーん、君しっかりしてるね。じゃああだ名で呼ぼう。何か好きなものってある?」
「……モネの睡蓮っていう絵が好き」

 これくらいの年頃の女の子はもっと可愛いものが好きなのかと勝手に思っていたから、彼女の返答が意外過ぎて更に興味が湧いた。

「へぇ、意外。うん、僕も好きだな。じゃあモネちゃん? それとも睡蓮だから、スイちゃんとか?」

 なんとなく提案したあだ名だったが、彼女は驚くほど顔を輝かせたので、その表情に翔の方が目を見張った。

「じゃあ……スイちゃんがいいな……」

 何か意味のある言葉だったのだろうか……その時はそんなふうに思いながら、自分のあだ名も考え始めた。

「了解。僕は……そうだな、ロミオくんにしようかな。ちょうど今の感じ、ロミオとジュリエットっぽくない?」

 すると彼女は首を傾げて、キョトンとした顔でかけるの方を見る。

「……よくわからない」

 その瞬間、翔は自分があまりにもクサいセリフを吐いたことに恥ずかしくなり、思わず吹き出してしまった。こんなところ、知り合いには絶対に見せられないよ。

 それから二人は会話を楽しみ、翌日にも会う約束をするのだった。
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