Macaron Marriage
* * * *

 あれから別荘に戻って、骨折していることが判明して慌てて家に帰ったんだよ……そんなことを思い出しながら、翔はクスッと笑う。

「ほら、ドレスのお店のことをみんなが教えてくれたから気になって調べたんだよ。そうしたら彼女の名前を見つけて、しかも場所があの別荘だろ? もう居ても立っても居られなくてさ、すぐさま飛び出したんだよね」
「……お前って昔から行動力あるよな。で再会したわけね。身分は《《どこまで明かしたの》》?」
「店長のままだよ。それ以前のことは話してない」
「マジか。で、この先どうするわけ? 俺がお前の父さんに彼女のことをバラしたおかげで、婚約にまで漕ぎ着けたんだぞ」

 そう。俺が萌音を気にしていると元基が父さんにバラしたことで、元々仕事上の知り合いだった親同士が意気投合してしまったのだ。それからはとんとん拍子に話が進み、あっという間に婚約という形になった。

 ただあの出会いからだいぶ経っていたこともあり、その話を聞いた時、翔自身も気持ちに確信が持てずに戸惑った。まだやりたいこともあったし、小さい頃の思い出に引きずられたまま結婚をすることに抵抗すら生まれていた。

 このことを萌音はどう思っているのだろう……日が経つにつれ、気持ちはマイナスに働いていく。

 その時に彼女の父親から、萌音が相手について知ることを拒否して逃げ出したという話を聞いた。そのことを聞いた翔は思わず吹き出した。結婚を拒否したわけじゃなく、相手を知るのを拒否して逃げ出したというのだ。

 その姿が昔の彼女の姿と重なり、きっとあのまま成長したのだろうと翔を安心させた。むしろ彼女らしい気がして、抵抗感が吹き飛んだのは事実だった。

『焦ることはないですよ。私だって今すぐに結婚とは思っていませんし』

 顔合わせの日に、庭で見つけた彼女と言葉を交わしたけど、なんとなく今じゃないと思った。だってお互いがやりたいことをまだやれていなかったから。だから彼女を逃したんだ。

 それから大学を卒業後に帰国して、今後の自分のステップのためにカフェの経営を始めた。父親の経営するグループの傘下にいながら、いずれは独立も考えていた。

 そこでまさかの再会を果たした。そう、何も知らない萌音が、偶然来店したのだ。

 顔を知っているのは翔だけ。萌音は声しか知らないはず。しかもちょうど変声期だったため、彼女は翔のはっきりとした声を知らないのだ。

 ついあの夏のように声をかけてしまう翔に、萌音は興味を示してくれた。だからこそ足繁く通ってくれたに違いない。
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