Macaron Marriage
 翔が木製の扉を開けると、そこには厳かな空気の漂っていた。ウォールナットの色合いの壁や床、そして長椅子が並び、正面には小さなオルガンが見える。その上部には大きなステンドグラスがはめ込まれ、色とりどりの光がチャペルの中に差し込んでいた。

 彼に手を引かれ、長椅子の間の通路を進んでいく。

「あ、あのっ……ここって歩いて大丈夫なんですか?」
「……まぁいつかは一緒に歩く道ですからね……」
「えっ?」
「いいえ、なんでもありません。式ではないので大丈夫ですよ」

 バージンロードを初めて一緒に歩いているのが婚約者ではなく翔であることに、萌音は多少の罪悪感を感じる。しかしそれとは反対に胸の高鳴りも感じてしまう。

「実はこのチャペル、別の場所から移築してきたものなんです。老朽化して取り壊す予定の教会があるというのを聞きつけて、耐震施工などをした上で譲り受けたんですよ」
「じゃあこの建物のレトロな感じって……」
「ええ、元々あるものです。ただここは晴れの日しか使えないので、雨の場合は建物内にあるもう一つのチャペルを使用するんですけどね」
「このチャペルが気に入った方は、雨だと残念でしょうね……」
「そういう方には、別の日に写真だけ撮影する日を設けるんです。まぁドレスやヘアメイクは別途料金がかかってしまいますがね」
「……でもそれならきっと心残りはなくなるかもしれませんね」
「そうですね。やはり幸せな、楽しかったという思い出にしていただきたいですし」

 歴史のある教会。きっとここが気に入って式を挙げたいと思う人も多いはず。

「このチャペルで写真だけでも撮りたいというお客様もちらほらいて、これから写真だけのプランを作ろうかって話しているんですけどね。ほら、雨だと難しいので、ちょっと難航していて」

 困ったように笑う翔の表情からは、それでも何か良案を探す意欲のようなものが見て取れる。

 彼の前向きな姿勢に感化されて、萌音は渡仏を決めることが出来たことを思い出す。この人の探究心や意欲は底なし沼なんだわ……そう思うと、つい笑みが漏れてしまう。

「萌音さん? どうかされましたか?」

 翔に顔を覗き込まれ、萌音は驚いたように後ずさる。

「い、いえ! なんでもないです!」
「そうですか? では次にいきましょう」

 萌音は平静を装いながら頷くと、翔に手を引かれチャペルを後にした。
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