Macaron Marriage
* * * *

 屋内のチャペル、新郎新婦の控え室、披露宴会場を見て回った後、翔は萌音を連れて中二階に上がる階段を昇り始めた。

「実は今一組お客様がいらっしゃっているんです」
「えっ、じゃあ私は下で待ってます」
「いえ、萌音さんに一緒に来てもらいたいんです」
「私が……ですか?」

 階段を昇り切ると、そこは四組のソファとテーブルが置かれた部屋があり、打ち合わせをする場所であることが伺える。

 その奥の席に一組のカップルと女性のプランナーが向かい合って話し合っている。

 どう考えても自分が場違いな気がした萌音は、不安そうに翔の顔を見る。しかし彼はニコリと微笑むと、そのまま打ち合わせをしているテーブルへと歩き出した。

 その時、翔に気付いた男性が勢いよく立ち上がると、突然表情を輝かせる。

「由利先輩! お久しぶりです! うわぁ、実物だ! 会いたかったですよ〜」
「元気そうじゃないか。電話とかメッセージのやり取りはしてたけどね。大崎の結婚式以来だから、もう三年くらいになるのかな?」
「そうですよ。先輩全然飲み会とかも来てくれなかったし」
「まぁ日本にいなかったからね」

 長身でメガネをかけた優しそうな男性は、どうやら翔の高校の後輩のようだった。相当彼を慕っているのか、まるで子犬のように喜びを表していた。

 それよりも萌音は、翔の言葉遣いにドキドキを隠せなくなる。いつも萌音の前では"私"と言って敬語を話す彼が、この男性の前では"俺"と言って普通に会話している。そのギャップにときめきながらも、自分よりもずっと距離の近い男性に少しだけ嫉妬しまった。

 私だって前から知っているのにな……そう思った途端、翔が萌音の方へ向き直る。
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