Macaron Marriage
「池上さんと由利さんはいつからのお知り合いなんですか?」
「私たち……ですか?」

 用紙に紗世のサイズを記入しながら、思考を過去へとスライドさせていく。

「えっと……私が大学四年の時によく行っていたカフェの店長だったんです。その時にいろいろなお話をしたり、私が留学する時に背中を押してくれたのも店長で……」
「まぁ、そんな前からだったんですか」
「実はそうなんです。彼が自分のブローチを私にくれて応援してくれて……だからお礼がしたくて帰国してすぐにそのカフェに行ったんですけど会えなくて……。そうしたらここで偶然再会したんです」
「まぁ、それこそすごい偶然ですねぇ。久しぶりに再会してどうでした?」

 一通りの採寸を終え、紗世に着替えを促す。用紙に記入していた手が止まり、萌音は困ったような表情になる。

「……あのっ……私、翔さんと一緒にいるとすごくドキドキするんです。一緒にいるとすごく楽しくて……だからさっき、あまりにも翔さんとご主人が仲良しだから……つい妬いてしまいました……」

 ワンピースを羽織り、椅子に座って前のボタンを留めながら紗世は微笑む。

「うふふ、私と一緒ですね。……ねぇ池上さん、それって一般的には"恋"って言うんですよ」

 紗世の言葉を聞いても萌音は驚かなかった。むしろ冷静にその言葉の意味を受け止めているように見えた。

「……やっぱり"恋"でしょうか……」
「きっと池上さんは由利さんがずっと好きだったんでしょうね。でも気が付かないフリをしちゃっていたんじゃないですか?」
「……言葉にしなければ自覚しないで済むって思ってたんですけどね……言葉にしない分、気持ちばかりが大きくなってしまったのかもしれません……」
「言葉にしちゃいけない理由でもあるんですか?」

 萌音は肩を落として俯いた。このことを、今日会ったばかりの、しかもお客様である紗世に話して良いのか悩んだ。ただ話せば自分の心が少しでも軽くなれるような気もした。
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