Macaron Marriage

8 月夜の告白

「じゃあ次回の打ち合わせもよろしくお願いします!」

 車の後部座席の窓を開け、紗世と波斗が明るく手を振る。萌音も笑顔を返しながら頭を下げた。

「こちらこそ、この度はありがとうございました! 次回もお待ちしています」

 そう言葉を交わすと、今度は翔が萌音の隣に立つ。その途端、萌音は頬を赤く染めて一歩飛び退いたので、翔は困ったように笑った。

 先ほど部屋に戻ってきてからずっとこの調子だ。きっと紗世さんといる間に何かがあったに違いない。

「今日は突然の申し出にも関わらず、引き受けてくださってありがとうございました」
「いえ……そんな……こちらこそありがとうございました。ではお二人のことをよろしくお願いします」
「……はい」

 萌音に促され、翔は渋々車の運転席に乗り込む。そして手を振りながら見送りを続ける萌音を見つめ、翔は諦めたように深いため息をつくと車を発車させた。

* * * *

 出て行く車を見送った後、萌音は自己嫌悪に陥っていた。

 どう考えても不自然な態度をとっちゃった……あんなによそよそしい他人行儀な振る舞い、今まで翔さんに対してしたことはなかった。

 きっとおかしいって思ったよね……両手で顔を覆いながらその場に座り込む。でも気持ちを自覚してしまっては、彼を直視するなんて無理な話だった。

 今まではカッコいい、素敵な男性、憧れの人。そこで留まっていたのに、いざ口にしてしまうと萌音の中に翔への"好き"という想いが溢れていく。

 顔を見ればキラキラ輝いて見えるし、声を聞くと体の芯が震えた。

 もう病気みたいじゃない! これからどうやって翔さんに会ったらいいの⁈

 萌音はふと顔を上げ、庭に面した塀に目をやる。小学六年の夏に出会ったロミオに、淡い恋心を抱いた。その日以降、誰かに恋をしたことはなく、久しぶりにときめきを感じたのが翔だった。

 その想いを認めなかったのは、もちろん自分が婚約をしているからだったが、それよりももしかしたら拒絶されるのを怖がった自分がいたのかもしれない。

 フラれるくらいなら、何も言わずに結婚を迎えてしまえばい。それなら傷つかずに済むんだから。

 今も傷つくのは怖い。でもそれ以上に不思議な気持ちが湧いていた。

 彼に触れたい、触れて欲しい……。そばにいるだけで彼の熱を感じて胸が熱くなってドキドキが止まらなくなる。

「どうしよ〜……」

 萌音は大きなため息をつき、思わず独り言が漏れてしまうくらい混乱して頭を抱えた。
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