Macaron Marriage
キッチンから玄関までの廊下を歩きながら、極度の緊張感に襲われ手が震える。
よく考えたらこれって何だろう……。今は午後十時。二人きり……とはいえ、一応部屋ではなくて外。これから一体何が起きるの……⁈
あの夏の日の疑問を抱きながら、玄関ドアの鍵に手をかけた萌音は、ゴクリと唾を飲んだ。それから大きく深呼吸をし、勢いよくドアを押し開けるが、ドアの外には翔の姿はなかった。
庭へと足を踏み入れると、中央の芝の上に翔が座って手招きをしていた。良く見れば布製のシートが敷かれ、その上に翔が腰を下ろしている。
トレーを持ったまま近付いていくと、翔が手を伸ばしてトレーを受け取ってくれた。
「ありがとうございます……」
「いえいえこちらこそ。急に来てしまってすみません」
翔はシートの上にトレーを置くと、トレーを挟んですぐ隣に萌音は腰を下ろす。それから翔の手元にあるワインを覗き込んだ。
「もしかしてロゼワインですか?」
「正解です。昨日話したフランスの友人が作っているものなんです。どちらかといえば淡いロゼなんですが、口当たりがすっきりしていて日本食にも合うんですよ」
そのボトルのラベルを見た萌音は驚いたように目を見開く。
「これ知ってます! 向こうにいるときによく飲んでました! まさか日本で出会えるなんて……」
「ご存知でしたか。フランスはロゼワインの生産量も消費量も世界一ですからね。その中でもこの銘柄を萌音さんが知っていたことが嬉しいです」
翔は器用にボトルを開けると、グラスにワインを注いでいく。その仕草に胸が苦しくなり、微笑みにうっとりと溶けてしまいそうになった。
「ねぇ、萌音さん。ストロベリームーンって知っていますか?」
「えっ……いえ、知りません」
「夏至の頃……六月頃にしか見られない赤みを帯びた満月のことをそう言うそうなんです」
「あぁ、赤いからストロベリーなんですね」
「それとイチゴの収穫時期が重なるからだそうです。この月には縁結びの効果があるって言われているんですが、夏至の期間だけでなかなか見ることは出来ない。そこでこんなおまじないが生まれたんです」
翔がグラスの中を指差した。そこにはロゼワインの中に浮かぶ月が映されている。
「満月の夜にロゼワインを飲むと恋が叶う」
恋が叶う……? 萌音は瞳を瞬きながら、ゆっくりと顔を上げて翔の方を見る。まさかそんな……有り得ない。しかし翔は真っ直ぐ萌音を見つめていた。
よく考えたらこれって何だろう……。今は午後十時。二人きり……とはいえ、一応部屋ではなくて外。これから一体何が起きるの……⁈
あの夏の日の疑問を抱きながら、玄関ドアの鍵に手をかけた萌音は、ゴクリと唾を飲んだ。それから大きく深呼吸をし、勢いよくドアを押し開けるが、ドアの外には翔の姿はなかった。
庭へと足を踏み入れると、中央の芝の上に翔が座って手招きをしていた。良く見れば布製のシートが敷かれ、その上に翔が腰を下ろしている。
トレーを持ったまま近付いていくと、翔が手を伸ばしてトレーを受け取ってくれた。
「ありがとうございます……」
「いえいえこちらこそ。急に来てしまってすみません」
翔はシートの上にトレーを置くと、トレーを挟んですぐ隣に萌音は腰を下ろす。それから翔の手元にあるワインを覗き込んだ。
「もしかしてロゼワインですか?」
「正解です。昨日話したフランスの友人が作っているものなんです。どちらかといえば淡いロゼなんですが、口当たりがすっきりしていて日本食にも合うんですよ」
そのボトルのラベルを見た萌音は驚いたように目を見開く。
「これ知ってます! 向こうにいるときによく飲んでました! まさか日本で出会えるなんて……」
「ご存知でしたか。フランスはロゼワインの生産量も消費量も世界一ですからね。その中でもこの銘柄を萌音さんが知っていたことが嬉しいです」
翔は器用にボトルを開けると、グラスにワインを注いでいく。その仕草に胸が苦しくなり、微笑みにうっとりと溶けてしまいそうになった。
「ねぇ、萌音さん。ストロベリームーンって知っていますか?」
「えっ……いえ、知りません」
「夏至の頃……六月頃にしか見られない赤みを帯びた満月のことをそう言うそうなんです」
「あぁ、赤いからストロベリーなんですね」
「それとイチゴの収穫時期が重なるからだそうです。この月には縁結びの効果があるって言われているんですが、夏至の期間だけでなかなか見ることは出来ない。そこでこんなおまじないが生まれたんです」
翔がグラスの中を指差した。そこにはロゼワインの中に浮かぶ月が映されている。
「満月の夜にロゼワインを飲むと恋が叶う」
恋が叶う……? 萌音は瞳を瞬きながら、ゆっくりと顔を上げて翔の方を見る。まさかそんな……有り得ない。しかし翔は真っ直ぐ萌音を見つめていた。