Macaron Marriage

「あーあ、《《今回》》はバレちゃったみたいだね」

 塀の上から垂れ下がる長い足。そして横の木は昔よりも背が伸びたはずなのに、その人物も同様に背が高くなったのか、やはり葉の影に顔が隠れている。

 見えないけれど、萌音ははっきりと確信していた。

「もしかして……翔さん……ですか?」

 高鳴る鼓動が、耳の奥にまで響いてくる。その人物は顔にかかる葉を退けると、ひょっこりと優しい笑顔を萌音に向けた。

「正解」
「どうして……」
「ん? 今日は月がきれいだから、一緒にワインでもどうかと思いまして」

 翔は塀に座ったまま、萌音に見えるように片手でワインのボトルを持つ。彼の姿を見た萌音は、先ほどまで悩んでいたのが嘘のように胸が熱くなっていく。

「それとももう遅いしワインだけ置いて帰った方がいいですか?」
「そ、そんな! あの……でも……私パジャマだし、もうメイクも落としちゃったし……」
「《《あの頃》》も毎夜パジャマでしたけどね。それに今は夜ですし、月明かりしかありませんよ。まぁそうでなくても萌音さんはそのままで十分可愛いですけどね」

 その言葉に萌音はドキッとする。翔さんってやっぱり……。

「あっ……じゃあ今玄関のドアを開けますね」
「……良かったら外で飲みませんか?」

 確かに部屋で二人きりになるよりは、外の方が緊張しないかもしれない。

「……じゃあグラスを持ってくるので待っててください」
「外は少し冷えるので暖かくして来てくださいね」

 萌音は頷くと、窓を閉めてからカーディガンを羽織る。それから慌てて一階に降りてキッチンに向かうと、食器棚からグラスを二つ取り出してトレーに載せた。
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