Macaron Marriage
* * * *

 翔と離れてから数日後、この日はリメイクの依頼を受けていたドレスの最後の試着と引き渡し日だった。

 仕上がったドレスをマネキンに着せ、打ち合わせの部屋へと運ぶと、萌音は目を細める。

 このドレスの依頼を受けたのは三ヶ月前で、ここでの仕事を始めて間もない頃だった。まだ依頼なんてものはほとんどなくて、いろいろな式場を回ったりカフェなどにチラシを置かせてもらったりと、まずは一件でも依頼をもらえるように走り回っていた。

 その時にたまたま立ち寄ったカフェで、店員の女性に声をかけられたのだ。その人は、知り合いがウェディングドレスのリメイクをしてくれる人を探していると言って、チラシを渡したいと声をかけてくれた。

 ホームページのことも伝えてもらい、それからしばらくしてから電話がかかってきたのだ。

 夫婦で来店すると言っていたが、当日にやってきたのは女性だけだった。女性は困ったように笑いながら、ドレスを差し出した。

「夫は急な仕事が入ってしまって……。どうしても来たいって言って聞かなかったんですが、諦めてもらったんです」
「そうだったんですか。別の日に変えても大丈夫でしたよ」
「いえいえ、私も今日休みを取っていたのでコロコロ変えるわけにはいきませんから。一緒に受け取りに来ればいいので。それに彼がいても、きっと私の好きにしていいって言ってくれると思うので……」

 そう言って女性は幸せそうに微笑んだ。小柄な体と少し幼めの顔立ちの女性は、どこかお人形のような印象を受ける。

 あぁ、花嫁になる方から溢れる幸せオーラというのはこういうものを指すんだろうなぁと、萌音も心が温かくなる。

「このドレス、母が結婚式で着たものなんです」
「えっ、そうなんですか? すごく状態が綺麗なので最近のものかと思いました」
「うーん、でも最近といえば最近なのかもしれません。実は私が小学生の時に再婚をしたんです。その時に着たドレスをずっとしまっておいたって言っていたので……」

 なるほど。それなら納得がいく。確かにこのデザインは二十年近く前に流行ったものだった。

「まさか母のドレスを着られるなんて……私も夫も思っていなかったから感慨深くて……。なるべくこのデザインは残しながら、私らしさを加えていただくことって出来ますか?」
「えぇ、もちろんです。どのような感じが良いなど、ご希望はありますか?」
「式は家族と親しい人だけでやる予定なんです。ただ十二月はちょっと寒いかなぁっていうのが気になってて……結構冷え性なんです、私」

 そんなことを言うものだから、二人は笑い合う。

 それから彼女の要望を聞きながら、ドレスのデザイン案を進めていった。メールでのやり取りなどを繰り返し、今日はその最終チェックとドレスの引き取りとなった。
< 88 / 130 >

この作品をシェア

pagetop