Macaron Marriage
 萌音の部屋に入り、ドアを閉める。翔はドアに寄りかかると、萌音に向かって両手を広げて微笑んだ。

 まるで私の気持ちを試されてるみたい……そう思いながら萌音は翔の胸に体を預けると、彼の腕に抱きしめられて胸がキュンとする。

 翔は萌音の頬に手を当てると、そっと額を合わせた。

「実は明日からしばらく東京に出張になっちゃったんだ」
「えっ……」
「急に父親に呼び出されたんだ。だからカフェとかレストランに立ち寄って様子を見たり、出来るだけ一度の出張でまとめてみた方が効率が良いからね」
「期間はどれくらい……?」
「たぶん一週間くらいかな」

 一週間……そう聞いた瞬間、萌音が口をキュッと結んだ。その顔を見た翔は嬉しそうに目を細めると、萌音にそっと口づける。

「寂しいって思ってくれた?」

 萌音が頷くと同時に、突然翔のキスが激しくなる。

「ごめん。今日はいつもより長くさせて……」

 呼吸さえ許してもらえないような熱いキスの中で感じたのは、翔としばらく会えなくなる寂しさ。これまで近くにいすぎたせいで、一週間が長く感じてしまうのは不思議だった。

「翔さん……」

 キスの合間、唇が離れた瞬間に精一杯の想いを口にしてみる。

「出来るだけ早く帰ってきてね……」
「もちろん、家に帰るより先にここに来るよ」

 再び唇が重なり、お互いの舌を絡ませていく。こんなキスも、あの日から翔さんが教えてくれた。好きな人と離れて寂しいって、こういう気持ちなんだって初めて知ったの。

「いつか萌音から俺を求めてくれる日が来ればいいのになぁ……どう? そろそろその気に……ん…」

 萌音はドキッとして、その言葉を飲み込むかのように翔の首に手を回して唇を押し当てる。

「それを言うのは……ずるいです……」
「そうだよね……ちょっと調子に乗ってたかもしれない。ごめん……」

 反省したように眉を寄せた翔に、萌音はただ頷いた。それ以上言わないでほしい……キスだけだって私なりに勇気を出した決断なのに、どうしてこんなにモヤモヤするんだろう……。だって体まで結ばれてしまったら絶対に戻れなくなってしまう。

「それにしたって萌音ってば積極的。そういうことも俺を喜ばせるってことを覚えておいてね」

 翔が萌音の首筋に唇を這わせていくと、口から熱い吐息が漏れる。彼の腕にすっぽりと抱きしめられると、この上ない安心感と、煮え切らないモヤモヤ感に包まれる。これは一体なんだろう……。

「好きだよ……萌音……」
「……私も大好き……」

 これは私の正直な気持ち。それに嘘はないの。ただ……伝えきれていない想いがあるのも事実。

 甘いことと切ないことが共存する感覚。これが恋なんだと改めて思った。
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